名医たちは、どんな健康法を実践しているのか。順天堂大学医学部の小林弘幸教授は「ネット上に大量に溢れ返っている情報は、ほとんどいらないものばかり。それに右往左往すれば、心身の健康を損なうことになる。心の健康を保つには、日々の行動をできるだけ『ルーティン化』するといい」という――。 ※本稿は、サライ編集室『5人の名医が実践する「ほどほど」健康術』(小学館)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi
■美しいものを「美しい」とさえ思えなくなった
コロナ禍では、多くの人がメンタルに不調を来し、心療内科の受診率が35%も増えたというデータもあります。高校生の3割がうつ傾向にあるという衝撃的な報告もなされました。
私の専門である自律神経は、全身の機能と深く関わっていますが、精神的なストレスの影響をもろに受けます。
コロナ感染に対する恐怖心に加え、外出もままならない不自由な暮らしは、想像以上に人々の自律神経を乱し、心身共に病む人が増えたのです。
実は、私自身の精神も一時期、“危険水域”にありました。緊急事態宣言下にあった2020年の5月、人通りの少ない早朝の時間帯を選んで、散歩に出かけました。
都心のおしゃれな通りに朝の日差しが差し込み、その街並みはとても美しいはずです。ところが、そのときの私はその光景に何も感じることができませんでした。
以前の私は、どんなに忙しくても周囲にある“小さな美”に気づき、それを心の糧にすることができていました。それなのに、美しいものを美しいとさえ思えなくなっていたのです。
■「1日1枚の撮影習慣」を始めた
「これはまずい」自分の感性がおかしくなっていることに危機感を覚えた私は、意識的にあらゆるものを見つめ、「きれいだな」「素敵だな」と感じたら、写真を撮ることにしました。 街路樹、公園のオブジェ、道端の花、カフェの外観、夕焼け……なんでもいいのですが、1日1枚スマホで撮影し、インスタグラム(写真や動画を無料で共有できるサービス)に公開します。
いわゆる「写真映え」を競うのが目的ではなく、あくまで私自身の健康のためですから、写真の出来自体は気にしません。
とはいえ、ただ撮影するだけではなく、ネット上に記録するところまでが大事。自分が感じ取った小さな美を、後に見直しながら整理していく作業によって自律神経が整うのです。
この「1日1枚の撮影習慣」は、コロナ禍が収束した後も、私の健康法のひとつとして継続していくつもりです。
■「長い閉じこもり生活」の影響はまだ続く
コロナ禍以降、会社も学校もリモート作業が増え、コミュニケーションの形は急激な変更を余儀なくされました。楽しい旅行や会食、イベントが中止になることも経験しました。しかし、私たち人間は社会的生き物であり、外に出たり、人々と関わったりする中で心身のバランスを取っています。長い閉じこもり生活は、ボディブローのように効いて、自分が想像している以上に大きな影響を受けているのです。
コロナウイルスそのものとの戦いは、収束に向かっていくかもしれません。しかし、精神面の問題は、むしろこれからどんどん表出していくはずです。
平常時でも、夏休み明けなどは「会社に出たくない」「学校に行きたくない」と訴える患者さんが増えます。それが、これほど長期にわたって閉じこもっておいて今度はいきなり動きだすわけですから、うまく対応できなくて当たり前。年齢、性別、職業などを問わず、誰もが「自分はメンタルが弱っている」と認識し、何かしらの行動を起こしましょう。
多くの人が、「コロナのせいであれもこれもできなかった」という悔しい思いを抱えていることでしょう。修学旅行や運動会が中止になった子どもたちには、慰めの言葉もありません。
■整理整頓も自律神経を整えるのに効果的
私は、医者という仕事柄、病院勤務は変わらずに続けましたが、それでも講演会などの仕事は軒並みキャンセルしました。プライベートでもたくさんの楽しい機会を失いました。しかし、コロナに“やられっぱなし”でいては、ますます心身を病んでしまいます。ここはあえて、「コロナ禍だからできた」という意識転換をしていくべきです。
私の場合、家にいる時間が増えたことを生かし、整理整頓を始めました。これまで気にはなっていたけれど手つかずにいた余計なものの処理を、今は着々と進めています。資料が山積みになっていた研究室も、きれいに片付けて気持ちを一新。すっきりと仕事ができるようにしていく予定です。
整理整頓も自律神経を整えるのに効果的です。コロナ騒動に流されて、なんだかけじめがつかないと感じている人は、ぜひ、この機会に取り組んでみてください。
私たちは、歓送迎会や卒業式など、大小さまざまな季節の行事で人生に区切りをつけていたのに、コロナ禍でその機会を失うことがありました。
例えば、この間、定年を迎えた人は中途半端に人生の大きな節目を迎え、糸の切れた凧のようになっています。
「コロナに負けず新しく始めた習慣」を意識的に持ちましょう。
私のように小さな美を感じたり整理整頓したりするだけでも、気持ちは前向きになっていくはずです。
■男性は30歳、女性は40歳過ぎから副交感神経の働きが落ちる
自律神経は、緊張と興奮を司る「交感神経」と、リラックスを促す「副交感神経」からなり、車にたとえると、交感神経はアクセル、副交感神経はブレーキのような役割を果たしています。事故なくいい走りをするためには、アクセルもブレーキも高い機能を維持していることが大事ですが、男性は30歳、女性は40歳を過ぎたあたりから副交感神経の働きがガクッと落ちる傾向にあります。
すると、交感神経が優位になり、イライラしたり不眠に悩まされたりするのです。逆に、交感神経の働きが低く副交感神経が高ければ、心身の活力がなくなって、うつ病などの心配も出てきます。
いずれにしても、自律神経の乱れは心身の不調に直結しますが、その名の通り、脳の支配から自律していてコントロールが利かないため、生活面のリズムを整えるといった工夫が重要になります。
私も含め現代に生きる人は、そもそも自律神経のリズムを乱されがちです。というのも、外部に「乱す」要素が多すぎるからです。
その最たるものが怪しげな情報。
とくに、インターネット上には、どんな分野についても無責任な情報が溢れ返っています。そうした情報に振り回されないために、私が実践しているのが日々の行動の徹底した「ルーティン化」(習慣化)です。
■自分へのスイッチを入れる「コップ一杯の水」
初めに、「目覚めたらコップ一杯の水を飲む」こと。好きな銘柄のミネラルウォーターを丁寧にコップに注ぎ、ゆったりとした気分でごくごくと飲み干します。睡眠中に失われた水分の補給をし、腸の働きを促すと同時に、「大切な一日を流されずに過ごそう」という自分へのスイッチを入れる重要な習慣となっています。
帰宅後も、どんなに疲れていても、まず一杯の水を飲み、身につけていた靴や服をきれいにしまいます。続けて翌日の服を用意してから、ゆっくり寛ぎます。
こうした行動のルーティン化によって、自分の生活を外部の雑音から守っているのです。
考えてみると、ネット上に大量に溢れ返っている情報は、ほとんどいらないものばかり。
それに右往左往して自律神経を乱し、心身の健康を損なうのはバカらしい。
また、コロナ禍以降、実に多くの人がネット上の定額動画配信サービスを利用して、連続ドラマなどを深夜まで見続けるようになったそうですが、これも自律神経を乱す行為。
現代社会は油断しているとすぐに、不必要な情報に飲み込まれ、結果として自律神経を乱すリスクに満ち溢れています。
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小林 弘幸(こばやし・ひろゆき)
順天堂大学医学部教授
1960年、埼玉県生まれ。順天堂大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した“腸のスペシャリスト”としても有名。近著に『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(アスコム)、『名医が実践! 心と体の免疫力を高める最強習慣』『腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割』(ともにプレジデント社)『眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話』(日本文芸社)。新型コロナウイルス感染症への適切な対応をサポートするために、感染・重症化リスクを判定する検査をエムスリー社と開発。 ----------
(出典 news.nicovideo.jp)
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