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2023年
上半期(1月~6月)にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします――。(初公開日:2023年4月23日



健康寿命を延ばすには、どうすればいいか。東京大学大学院の佐藤隆一郎特任教授は「早歩きのできる体力の維持がカギになる。高齢者の歩行速度と予想余命年数には、有意な相関がある」という――。

※本稿は、佐藤隆一郎『健康寿命をのばす食べ物の科学』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

■2週間寝たきりになると1年分の筋肉が失われる

我々の体は体重の40%程度を占める骨格筋に支えられ、保護されています。骨格筋は細長い筋繊維とその細胞間を埋めて束ねる結合組織から成ります(図表1)。

筋繊維はそれぞれが個の細胞で、筋細胞と呼ばれます。筋細胞の中でも、赤みを帯びた酸素結合性タンパク質であるミオグロビンやミトコンドリアを多く含む筋細胞は赤筋(遅筋)と呼ばれ、持続的な運動に寄与します。

一方、ミオグロビンなどの含有が低く、瞬発的な運動に関与するのが白筋(速筋)です。筋繊維の集まりが筋束を構成し、筋束の集まりが骨格筋となります。

骨格筋のほとんどは上肢・下肢に分布し、下肢の重量が上肢の4倍程度となります。

これは、太ももにある大腿筋(だいたいきん)が上肢に比べて格段に大きいことからもわかります

加齢とともに筋量は減少し、高齢者の場合は年に1~2%程度減少すると報告されています。また上肢と比べて、筋量の大半を占める下肢の筋肉量は加齢に伴う低下率が3倍にのぼります。

特に体の前面の下肢骨格筋量が減少し、つま先が十分に上がらず、それまで軽くまたぐことができていた障害物につまずくようになります。

転倒してベッドで2週間仰臥(ぎょうが)すると1年分の筋量が失われ、そのまま寝たきり状態になれば自立活動ができる状態に戻ることは難しくなります。

「筋量低下→転倒→寝たきり」という負のスパイラルに陥らないためにも、下肢を鍛えるウォーキングなどの運動習慣により筋量を維持することが必要です。


(出典 yamanopt.com)


■歩行速度と余命には関係性がある

下肢の重要性について、高齢者の歩行速度と予想余命年数の関係を示した興味深い研究報告があります(図表2)。

図では各年齢の歩行速度を調べ、その後何年の余命があるかを示してあります。たとえば70歳男性の場合、極めて遅い歩行速度の0.2m/秒(最下段の線)であれば7年、最も速い歩行速度の1.6m/秒(最上段の線)であれば23年の平均余命を持つと示しています。

また、70歳女性では同じ条件下で10~30年と20年もの開きがあります。つまり、70歳になっても若い人と変わらぬ速さで歩ける健脚の持ち主は、その後も健康寿命を維持し、長生きする可能性があるということです。早歩きできることは、筋量が十分で、老化による機能低下が生じていないことを意味しています。加齢に伴いのんびり歩くのではなく、早歩きできる健脚を維持することを心がけるようにしましょう。



■基礎代謝量の増加は生活習慣病を予防する

運動は骨格筋を弛緩(しかん)・収縮させることにより行われ、その過程でエネルギーが必要とされるため糖質・脂質が消費されます。運動によりカロリー消費が高まれば肥満を防ぐことができます。

このように生体成分が代謝され、形を変えることを異化と言います。

運動終了後、しばらくしてから筋肉では筋肉量を増やすべくタンパク質合成が上昇し、同化作用が起きます。つまり運動は時間差で異化・同化というまったく方向性の異なる生理変動を惹起するわけです。

こうした生理変動と同時に、骨格筋は代謝組織としても重要な働きをしています。

食後の血糖値上昇に伴いインスリンが分泌されると血糖値が低下しますが、これは血中グルコースの75%近くを骨格筋組織が取り込むためです。血糖値を正常値に近いレベルに維持するには、骨格筋量を維持することが必須となります。加齢とともに骨格筋量が減少すれば身体機能の維持が難しくなり、なおかつ血糖維持を介した代謝制御機能も脆弱(ぜいじゃく)化します。

高齢者が適切な筋量を保持し、自立活動を可能にする身体ロコモーション機能を維持すれば健全な代謝制御機能が保たれ、健康維持にも結びつきます。

もちろん中年男女にとっても筋量を維持し、基礎代謝量を上げておくことは生活習慣病発症の予防につながることは言うまでもありません。

■30分早歩きしても少しのお菓子で相殺される

運動が健康維持に役立つことは広く認められています。

中高年のサラリーマンA氏は定期健診で体重・血糖値・中性脂肪が高いことを指摘され、習慣的に適度な運動をするよう勧められました。

仕事に追われる毎日で十分に時間が取れないことから、帰宅時に最寄り駅の一つ前の駅で下車し、30分ほど早歩きして帰宅することにしました。

初めは苦痛に感じていたものの、慣れてくると多少の爽快感も感じるようになりました。

しかし運動をしているからということで気を許してポテトチップスを8枚程度食べてしまうと、消費カロリー分は相殺されてしまいます。成人が早歩きで30分程度歩くと軽く汗をかきますが、それでも消費カロリー100kcal程度です。

かなり負荷のかかる運動をしない限り、痩せるほどのカロリーは消費しません。

また、ある程度のカロリーを消費すれば食欲が増し、摂取カロリーはかえって上昇します。公表論文によれば、推奨される運動量に達していなくても習慣的な運動を続けていれば、まったく運動をしない人と比べて死亡リスクが20%程度低下することがわかっています。

■筋トレをすると体はどのように変化するのか

運動により健康増進効果が得られることには、どのようなメカニズムが作用しているのでしょうか。

腹筋や腕立て伏せなどといった筋肉トレーニングは速筋(白筋)で糖質をエネルギー源とし、瞬発力を発揮する無酸素運動で、ウォーキングや水泳などは遅筋(赤筋)で脂質を燃焼する有酸素運動です。

いずれの運動においても体内でエネルギーを消費する際には高エネルギー貯蔵物質であるATP(アデノシン3リン酸)が分解され、AMP(アデノシン1リン酸)へと変換されます。

骨格筋細胞内のAMP濃度が運動のエネルギー消費により上昇すると、細胞質の酵素AMPキナーゼが活性化されます

。AMPキナーゼはα・β・γの3サブユニットから成る三量体タンパク質で、αサブユニットがリン酸化されると活性型となります。

通常、生体内でタンパク質のリン酸化/脱リン酸化は一定のリン酸化状態を保っており、リン酸が付いたり離れたりを繰り返しています。運動によりAMP濃度が上昇するとγサブユニットにAMP分子が結合し、αサブユニットのリン酸基の離脱が抑制されます。こうして長時間、αサブユニットがリン酸化状態を保ち、活性化状態が維持されることになります。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AJ_Watt

■運動と脂肪燃焼はどのように関係しているのか

活性型AMPキナーゼは種々のタンパク質をリン酸化し、その活性を調節します。脂肪酸合成の初発段階を触媒するアセチルCoAカルボキシラーゼ1はアセチルCoAからマロニルCoAを合成します。

AMPキナーゼはこの酵素をリン酸化し、活性を抑制することにより脂肪酸合成、トリグリセリド合成を低下させます。

それと同時にコレステロール合成の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素をリン酸化して活性を抑制し、細胞内コレステロール合成を低下させます。

エネルギーを使い切った時点で、さらにエネルギーを費やして脂肪酸コレステロールを合成する必要はないので、これらの合成経路を遮断します。

さらには脂肪酸β酸化経路を活性化し、脂肪酸燃焼を活性化させます。運動することにより骨格筋で積極的に脂肪酸が燃焼されると、血液中のトリグリセリド(中性脂肪)の低下に結びつきます。

一方、AMPキナーゼは骨格筋による血液中のグルコース取り込みを上昇させる作用も持ちます。先に説明したように血糖値が上昇した際、骨格筋はその75%程度を取り込み、グルコース貯留庫のような役割を果たしています。

これは血糖値の上昇に伴い膵臓(すいぞう)からのインスリン分泌が上昇し、血液中のインスリンと骨格筋細胞表面のインスリン受容体が結合し、細胞内へとシグナルを伝達したことにより生じます。

■運動すればインスリンの力を借りずに血糖値を下げられる

陸上競技リレーのように、受容体がインスリンを結合すると細胞内の複数の因子が順番にリン酸化され、次々とリン酸化を介して信号を伝達していきます。このように信号が伝わる経路のことをカスケード(もともとは何段も連なった小さな滝のことを示す言葉でした)と呼びます。

骨格筋細胞の表面でグルコースを取り込む輸送体はGLUT4というタンパク質です。インスリンの信号が来ていない状態では、GLUT4は細胞内の貯蔵小胞上に留まっており、血糖上昇に伴いインスリンが分泌されると、筋細胞表面のインスリン受容体からのカスケードシグナルが貯蔵小胞に到達します。

その結果、小胞は細胞表面へと移行し、細胞表面のGLUT4タンパク質量が上昇すると取り込みも促進されます。

一方、運動により筋細胞内のAMPキナーゼが活性化されると、インスリンシグナルカスケードとは別の経路で貯蔵小胞の細胞表面への輸送を促進します。糖尿病メタボリックシンドロームでは血糖値が上昇し、インスリンが分泌されますが、やがてインスリン受容体を介してのシグナル伝達が十分に作動しなくなります。

このようなインスリン感受性の欠落した状態を「インスリン抵抗性」と呼びます。

この場合、インスリンは分泌されるものの十分に血糖値が下がらなくなり病状はより悪化しますが、運動することにより、インスリンの力を借りずにAMPキナーゼの作用により血糖値を下げることが可能です。

■食品成分でも持久力を強化することができる

AMPキナーゼは以上のようなプロセスで、運動による持久力向上のマスターレギュレーター(主要制御因子)としても機能しています。AMPキナーゼを活性化する合成薬物であるAICARをヒトに投与すると骨格筋でAMPキナーゼを活性化し、持久力を亢進(こうしん)することが知られています。

AICARは体内に吸収された後、細胞に取り込まれると代謝され、AMPと形の似た化合物へと変換されて機能を発揮します。そのためドーピング薬物の一つとして使用が禁止されています。先ほども述べたように、運動では時間差をもって骨格筋内でタンパク質合成を上昇させ、筋肥大を誘導しますが、これは腕立て伏せスクワットを継続すると筋量が増えることの説明となります。

また、筋肉タンパク質合成の上流ではインスリンと似た機能をもつIGF-1(インスリン様成長因子-1)がその受容体を介してシグナルを伝達することによってタンパク質合成が亢進し、結果として筋肥大が導かれます。興味深いことに、複数の食品成分がAMPキナーゼ活性を上昇させることが示されています(図表3)。

種々のフラボノイド類の合成中間体として柑橘(かんきつ)類などに含まれるナリンゲニン、お茶に高濃度含まれるカテキン類、ブドウ果皮に含まれるレスベラトロールなどでその作用が確認されています。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AJ_Watt

■運動しなくても運動能力を高められる時代になりつつある

運動すると骨格筋でエネルギーが消費されたことを感知し、AMPキナーゼが活性化されることは先に述べました。

AMPキナーゼは全身の組織で発現しており、肝臓での役割も重要です。肝臓では運動の有無にかかわらず、エネルギーが枯渇した際に(細胞内でATPが消費されてAMP濃度が上昇)AMPキナーゼが活性化され、脂肪酸をβ酸化するなどしてエネルギー獲得の方向へと導きます。

AMPキナーゼを活性化することにより、肝細胞に過剰のトリグリセリドが蓄積することによる脂肪肝を防ぐことが期待できます。

AMPキナーゼを活性化するお茶の苦み成分、カテキンを豊富に含んだ茶飲料が特定保健用食品として販売されています。

レスベラトロールについては以前、長寿遺伝子サーチュインを活性化するのに効果的であるという研究結果が出され、注目を集めましたが、現在ではその直接的な作用はAMPキナーゼ活性化によると考えられています。

このような知見に基づき、食品成分の中からAMPキナーゼ活性を上昇させる化合物として、グレープフルーツ果皮に含まれる香料成分・ヌートカトンが見出されました。この成分を含む餌をマウスに18週間投与すると、含まない餌で飼育したマウスと比べて水流プールでの遠泳時間が伸び、持久力が増進することが認められています。

高齢者は加齢とともに自立活動時間が少なくなり、筋力・筋量の低下に加えて食欲も低下していきます。

食品成分でAMPキナーゼ活性を上昇させることを心がければ持久力が高まり、健康維持に貢献することが期待されます。

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佐藤 隆一郎(さとうりゅういちろう)
東京大学大学院 農学生命科学研究科特任教授・名誉教授
1956年生まれ。放送大学客員教授。日本薬科大学非常勤講師。東京大学大学院農学系研究科修了。農学博士。専門は食品生化学、脂質生化学2019年紫綬褒章。著書に『食と健康』(共著、放送大学教育振興会)、『健康寿命をのばす食べ物の科学』(ちくま新書)など。

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(出典 news.nicovideo.jp)





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